コンビニエンスストア業界のビジネス② コンビニ業界大手三社の経営戦略
前回の記事でコンビニエンスストア(以下、コンビニ)の定義や歴史、コンビニを語る際に避けては通れないフランチャイズ(以下、FC)について学んだ。
今回は各社が展開しているFCのコンビニ型ビジネスモデルについて考察していきたい。
目次
- コンビニ大手3社のフランチャイズ展開
- 各社のCVSビジネス型モデル戦略
- CVS市場は大手CVSによる寡占市場である
コンビニ大手3社のフランチャイズ展開
コンビニ大手のセブン-イレブン、ファミリーマート、ローソンの3社はいずれも、FC 店と直営店のいずれも運営している。しかし、各社のFC比率は90%を超えており、その収益面においても、セブン-イレブンでは80%以上、ファミリーマート及びローソンもその大半がFC店舗からもたらされている。このように、国内コンビニ事業におけるFC店舗の貢献度の高さがうかがえる。
各社のコンビニ型ビジネスモデル戦略
業界最大手のセブン-イレブンは、「ドミナント戦略」と言われる戦略に基づいて店舗展開をしてきた。「ドミナント戦略」とは、特定の地域に集中して出店することで地域内の競合店舗に対し、優位性を保ちながら、物流や広告効果が効率良く得られるとされる戦略のことである。
例えば、同じ地区にセブン店舗1とファミマ店舗が隣接している場合を例として考えてみたい。それぞれの日販は1日あたり50万円だったとしよう。同じ地区にローソンの新規店舗がオープンした場合、その地域の需要は一定という前提を置くと、各店舗の売上高は減少して、35万、35万円、30万円になり、既存店のセブン1とファミマは何もしていないにも関わらず日販が15万円減少したことになる。一方で、ローソンではなく、セブン店舗2がオープンした場合には、同じ売上高35万円、35万円、30万円となったとした場合、セブン-イレブン全体の売上高は65万円となり、当初の単一店舗の売上よりも大きくなる。結果的に、売上高増加にも貢献し、前述した効率化も相まって、利益を生み出すことができる。
このように国内外問わず日常生活の中で自然と目に入るように、出店することで大きな広告効果を得ているといえる。
また、セブン-イレブンを運営するセブン&アイHDは、国内コンビニ事業に加えて、海外コンビニ事業、イトーヨカードー等の総合スーパーマーケット事業(GMS)、そごう・西部などの百貨店事業、アカチャンホンポとLOFTなどの専門店事業、セブン銀行等、小売事業に関わる様々な事業を運営している。
その中において、セブン-イレブンは中核事業を担うと共に、イトーヨーカドーなどの総合スーパーマーケット事業とのシナジーを発揮しているコンビニの王者と言える。
ファミリーマートは、西友ストアーが実験店舗として開設したのが始まりと言われている。その後、西友から独立し、株式会社ファミリーマートが展開された。大手3社の中で唯一の日本生まれ、日本育ちのコンビニであり、昨今は、総合商社の大手一角である伊藤忠商事が同社の全株式を買収し、非上場化された。
ファミリーマートの基本戦略はセブン-イレブン同様、『ドミナント戦略』である。打倒セブン-イレブンを掲げ、サークルKサンクスを抱えるユニー株式会社と経営統合したり、2017年にはドン・キホーテと業務提携をしたりと、様々な吸収合併を繰り返し実施してきた。しかしながら、拡大成長路線を描いてきたが、市場の頭打ちもあり、2021年時点において、店舗数ではセブン-イレブンに大幅に遅れを取ると共に、日販についてもセブン-イレブンから大きく離されているのが実情である。
ローソンは、もともとダイエーが親会社だったが、のちに「株式会社ローソン」に商号変更された。ローソンも、セブンと同様にアメリカ発祥のコンビニであるが、上記2社と比べると海外進出が遅れているのが弱点と言える。これは、各社の戦略の違いによって生じてしまった問題なのかもしれない。
ローソンでは、『ターゲティング戦略(=別名、差別化戦略)』と言われる戦略で店舗展開している。これは、消費者の生活スタイルに合わせた店舗展開、店舗ごとの差別化によって地域顧客を獲得する戦略を意味する。ローソンと言っても、「ローソン」「ナチュラルローソン」「ローソンストア100」などを展開しており、その他にも青果や惣菜中心の「ローソンハイブリット」や羽田空港で展開する「エアローソン」などターゲットに合わせた新しいジャンルが続々展開している。
コンビニ事業は大手CVSによる寡占状態である
上のグラフにも示したとおり、コンビニ3社の売上高の割合は日本のコンビニ業界全体の90%を占めており、寡占市場であるといえる。コンビニ事業を展開する都合上、多くの店舗を構え、便利さを追求するために他企業とも様々な業務提携を組み、効率的に各店舗へ商品を配送するための大きな物流施設を構える必要がある。つまり、コンビニは巨大なインフラ産業と言える。この競争に追いつけない小さなコンビニは、競合他社に吸収されたり、淘汰された結果、さらに大手コンビニ企業の寡占が加速する。
もう一つの原因として、セブン-イレブンの強さが圧倒的であることが挙げられる。ファミリーマートやローソンは、多くのコンビニを吸収したり、他社と組んだりすることでセブン-イレブンに追いつこうと策を打っている。そんな中で、北海道に本拠地を構えるセイコーマートという企業がある。
セイコーマートとは
そもそも北海道に本拠地を構える「セイコーマート」というコンビニを皆さんはご存じだろうか。日本に現存する中でも最古と言われるコンビニであり、北海道を拠点として事業を展開する会社であるセイコーマート。2021年8月に50周年を迎え、北海道内において1,000店舗以上を展開し、道民に愛されている。元々は酒屋を営んでいた企業が経営の近代化を進めるにあたってコンビニ事業を検討し、進出したことが発端であったとされる。昨今よくメディアでも取り上げられる企業であり、他のコンビニ企業を上回るパフォーマンスを発揮していると噂されている。
大手三社の様にコンビニ業界の拡大戦略は、通常FC型で店舗を増やし、ロイヤリティ収益を拡大するのが王道だが、セイコーマートは酒販売関係者の共同運営から派生し、その数を増やしていった為、少々コンセプトが異なっている。そのため、FC店よりも直営店が多く、全店舗の内、約8割程度が直営店として運営されていると言われる。特に北海道と言う地域に特化した徹底的な地域密着型のビジネスを展開している。
また、フランチャイズ店舗のロイヤリティーも他のCVSと比較して、低く設定されており、別の記事で紹介したボランタリーチェーンの要素も兼ね備えたFCのハイブリット形態と言えるかもしれない。
ドミナント戦略は行わない
元々がボランタリーチェーンに近い形で運営されていた事もあり、同社は大手CVSの経営戦略であるドミナント戦略は基本的に行わない事としている。これは、加盟店の存続の支障の可能性があると判断してのことである。
前回の記事で触れた通り、配送の最適化等を推進し、他コンビニと自グループコンビニの収益を奪い取るドミナント戦略を実行すると、他店に大きな影響を与えてしまう。中長期的な視点で見れば、FC店舗のオーナーのロイヤリティ(金銭的な要素に限らず)は下落する傾向にあるだろう。
前述した地域特化のビジネス形態も、他社には真似できないものであり、独自の地位を確立するニッチ戦略を展開している。そして、小売のみならず、生産から物流まで一貫した垂直統合型の構造を構築し、地域の地産地消やプライベートブランドを北海道と言う市場で発揮している。チェーン全店の売上高は2020年12月期で1,837億円(前年比1.4%)となり、北海道ブランドを訴求する独自スタイルのビジネスは好業績につながっている。
セイコーマートの資本関係
大手CVSの多くが株式市場に上場している。そんな中、セイコーマートは株式市場のは上場していない。一方で主要株主には、大手総合商社の三菱商事、伊藤忠商事が顔を連ねる。三菱商事はローソンの親会社であり、伊藤忠商事はファミリーマートの親会社である。各社、マイナー出資者としてセイコーマートのビジネスを取り込む事でそのビジネスのノウハウを吸収する事を考えている。大手コンビニが真似をしたくても出来ない企業であるセイコーマートだが、なぜ非上場企業なのだろうか。
通常、株式市場に上場する事は『自由度』を損なう恐れがある。なぜならば、成長性・収益性を求められ、株主還元価値を高めるように市場から圧力を受けるためである。また、上場する、或いは上場維持するためには内部の管理体制の構築や、決算報告体制を整備する必要がある。上場企業の場合、毎四半期決算報告を行う必要があり、そこに時間と労力を割くことは、セイコーマートとしては顧客価値の毀損に他ならない。
中長期的な視点での顧客サービスの開発、サステイナブルな地域発展を目指した結果に顧客価値の最大化というゴールがあると考え、上場はせず、企業規模の拡大を目標とせず、実践するセイコーマートだからこそ、大手コンビニ企業が真似することの出来ないビジネスモデルを確立し、顧客のロイヤリティの高いサービスを提供し続ける事が出来る様である。
<サマリー> ・大手三社共に店舗の大半がFCであり、収益の依存度も高い ・セブン-イレブン、ファミリーマートは『ドミナント戦略』、ローソンは『ターゲティング戦略』を展開 ・コンビニ市場は大手三社で独占状態 ・そんな中、セイコーマートは独自の経営スタイルを貫く異端児
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