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ルンバがAmazonに買収!?お家のデータがAmazonの手中に


2022年8月5日にAmazonが『ルンバ』で有名なお掃除ロボットのiRobotを買収する旨の発表が行われた。買収金額は約17億ドル(円貨で約2,200億円)と発表されている。AmazonはiRobotが保有(あるいは取得)するルンバの屋内マップ、間取り情報を取得することを目的にしているのだろうか。改めてiRobot社のビジネスを再確認しながら、Amazonが同社を買収する意図を考えていきたい。

目次

1.iRobotとは
2.買収の狙い

iRobotとは

ロボット掃除機の「ルンバ」を手掛ける米国企業であるiRobot社が初めてルンバを発売したのは2002年。それから20年で北米市場の約7割、日本市場においても6割強の市場シェアを誇り、全世界(除く、中国市場)で半分のシェアを占めていると公表している(出典:iRobot社公表資料、2021年時点)。

iRobot社 IRプレゼンテーション資料より

一方で、唯一別記されている中国市場で高いシェアを誇る中国メーカーが徐々に海外市場でも台頭してきたことで、市場の競争は激化していると言われている。とりわけ、世界シェア2位のエコバックスや新鋭ロボロックが提供するロボット掃除機はルンバと同じ価格帯にあり、市場の収益性にも影響が出てきている様子。

そんな中、iRobot社は継続的に顧客を獲得するための取り組みの一つとして、その機能・性能毎に豊富な商品ラインナップを揃えている。

iRobot社 IRプレゼンテーション資料より

ルンバは家の中を掃除しながら、間取りを認識・記憶することで次回以降の掃除ルートを効率化する機能が備わっている。また、AI搭載のカメラ機能のついているタイプもあり、障害物や家具などの場所を把握し、その結果(データ)をクラウド上のデータベースに蓄積し、世界中のルンバデータベースでの動作性向上のために共有している。

これらの情報に加えて、各家庭のルール設定(例:あらかじめ決められた時間帯での静音モードへの自動切り替え)も可能となっている。

iRobot社 IRプレゼンテーション資料より

またiRobot社は従来までの『一度商品を購入し、継続的に顧客との関係を維持すること』に加えて、『サブスクモデルによる利用のし易さ』を目指す戦略を打っている。購入時の初期費用を抑えられるため、より多くの顧客層にアプローチすることができる。iRobot社は新たな層を取り込むとともに、商品購入後も顧客との接点を継続的に持つことができため、長期間にわたって経済的便益を生み出すiRobot社にとってのメリットを両立できると考えている。

このように一度限りで顧客との関係が終了する従来の収益モデルからの脱却に取り組むも苦戦していたところに、救世主が現れた。それが、今回のAmazonによる買収なのだ。


iRobot社 IRプレゼンテーション資料より

AmazonにとってのiRobotの魅力とは

現在Amazonは、自社でお掃除ロボットは手掛けておらず、代わりにデジタルアシスト機能を備えた家庭用ロボットのAstroや、家の中を飛び回る家庭用警備ロボRing Always Home Camを展開している。つまり、掃除機や掃除ロボットのセグメントで独占禁止法に引っかかる可能性は極めて低いと考えられる。そのため、いわゆる規模の経済性を獲得する水平展開は期待できず、また、サプライチェーンを通じた垂直統合のメリットも取りづらい。では、Amazonは「なぜiRobot社に目を付けた」のだろうか。

Amazonの消耗品自動定期購入サービス

まず頭に浮かぶのは、ルンバの交換パーツとAmazonの自動定期購入サービスの連携である。現時点でもAmazon製スマートスピーカーのAlexaとiRobot社のルンバをオンライン接続することで、ルンバを音声で操作することが可能である。
ルンバは付属部品の定期的な交換を必要とする設計となっており、サブスクとの親和性が非常に高い。その他にも消耗品である交換用紙パック、ダストカットフィルターやコーナーブラシなどを定期購入するモデル構築はさほど難しくないだろう。

また、前述した様にiRobot社は旧式モデルを高コスパ・格安モデルとして市場に再投入したり、サブスクやレンタルプランを提供する収益モデルの変革に取り組んでいる。現在、売上高の8割以上を占めるミドル・ハイエンド機種に依存した事業モデルは限界を迎えており、AmazonのECプラットフォームを活用した新規顧客獲得を期待している、これが一般的な本買収の見方だ。

Alexa for Residentialとの親和性

ここからは、Amazon側の思惑に関する私見を述べていく。Amazonは2020年からAlexa for Residentialというサービスを展開してきた。このサービスを一言で言えば、「不動産管理業務をAlexaが代行する」ことである。すでにAmazonが手掛けている家庭用ロボットAstroと警備ドローンRing Always Home Camに加えて、世界中に顧客を抱えるルンバをラインナップに加える事により、住宅管理サービスレベルを一気に引き上げることができるのではないだろうか。

単なる機能の拡張のみならず、様々な家電との連携はもちろんのこと、ルンバによる間取りデータや映像データ等のビッグデータ解析を通じたレコメンド機能の拡張なども考えられる。より顧客体験の価値向上に貢献する取り組みが期待できよう。ルンバが単なるお掃除ロボットという枠組みからハウスワークロボットに進化していく可能性もありそうである。将来的には、「ここに新しいカーペットを設置しましょう。また、ソファーのおすすめのサイズをAmazonのおすすめ商品に掲載しましたのでご覧ください」とルンバからレコメンドされる未来が来るかもしれない。

間取り図データの獲得

Amazonの物流倉庫は、概ね無人物流を実現していると言われているが、iRobotの家庭間取り図のデータを用いることでさらなる高度化・効率化を実現することに貢献できそうである。

また、Amazonが運営する実店舗の一つであるAmazon Goでは無人カメラ、レジを用いたシステムが構築されており、Amazon Goのスタッフにルンバが加わることで、地上からの管理も行き届くことになるかもしれない。

冒頭にも述べた通り、市場競争激化の中でiRobot社はデータに強いパートナーを求めていたというのが本筋ではないかとも考えられる。iRobot社に限らず日本の家電メーカーはもちろん、サイクロン掃除機で有名なダイソンも掃除ロボットを販売しており、データ活用に活路を見出し、Amazonという巨大企業の傘下に収まる道を選択したという可能性も高い。

いずれにせよ、Amazonが全世界の家庭で日夜データ収集を行っている約2千万台のルンバのデータを手中に収めることに変わりはなく、Amazonがデータ社会の基盤を更に強固なものにする買収案件であるということに疑いの余地は無さそうである。

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