意外と知らない!?Amazonの歴史
2021年8月、GAFA(親会社のアルファベット含むグーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)を合計した株式時価総額は7兆500億ドルに達し、とうとう日本株全体の時価総額(6兆8600億ドル)を超えた。
赤字を垂れ流しながらも、潤沢なキャッシュを投資につぎ込み、他の追随を許さない成長を続けてきた異例の遍歴を持つAmazonの歴史を振り返っていきたい。
目次
- 創業期
- 事業拡大期(事業多角化の嵐)
- 唯一無二の存在に、『アマゾン黄金期!?』
- リアル店舗への進出
1. 創業期(1994~1996年)
ジェフ・ベゾス氏は(大学院卒業後)ニューヨークにある大手ヘッジファンドD.E. Shaw社に入社し、4年で副社長の座にまで昇りつめるほどの優秀な人材として同社で重用されていた。そんな彼に転機が訪れたのは、1994年(当時30歳)に同社創業者からインターネットビジネスの市場調査を頼まれ、インターネットが驚異的なペースで普及していることを知り衝撃を受けたことがきっかけだった。
また、当時の本の流通業界にはこれといった大手企業が存在しておらず、従来の店舗販売型書店が抱える「商品ラインナップと店舗在庫の限界」にベゾス氏は着目し、書籍のインターネット販売業で起業することを決意したのがAmazonのはじまりだった。
当時の競合はリアル店舗を運営する街の本屋だった。1990~2000年代前半は、本屋の世界にも大規模店舗化の波が到来し、競合相手が米国のBarnes&NobleやBordersといった大規模なブックチェーンへと移っていった。
1994年、アメリカのシアトルで前身サイト”Cadabra.com”を書籍を販売するウェブサイトとして創設。当初は自宅のガレージをオフィス代わりに使用し、書籍のインターネット販売を行っていた。一説によるとある弁護士が”Cadabra”を「cadaver(死体)」と聞き間違えた出来事を受けて、1995年に社名を”Amazon.com, Inc.”に変更した。
2. 事業拡大期(1997年~)
インターネットバブルの波に乗ってオンライン書店として急成長していたAmazonは1997年にNASDAQ上場、当時の時価総額は5億ドル程度。上場後20年で時価総額1兆ドルを超える超巨大企業(Appleに次いで1兆円を超えた企業としては2社目)になることは、べゾス本人以外誰も想像していなかったことだろう。
《Amazon株価推移》
ここから、上場後にAmazonが辿ってきた歴史を簡単に振り返っていきたい。
1998年、オンラインストアで CD の販売を開始
書籍に次いで取り組んだのが、CDのEC販売だ。これを皮切りに、2001年には「音楽」、「DVD」、「ビデオ」、「ソフトウェア」、「TVゲーム」ストアが開店。その後も、2003年には「エレクトロニクス」、「ホーム&キッチン」、2004年には「おもちゃ&ホビー」、2005年には「スポーツ」、2006年には「ヘルス&ビューティー」、2007年も「時計」、「ベビー&マタニティ」、「アパレル&シューズ」と取り扱い商品を次々に拡大していった。
1999年、Alexa Internetからネット事業を2.5億ドルで買収
今日のAmazonをAI先進企業たらしめている最大のきっかけとなった投資といって過言ではない。Webサイトの利用状況に関するデータ収集を生業とするAlexa.com事業を買収。消費者には、スマートスピーカー「Echoシリーズ」に搭載されている人工知能の名称として知られている。PCもそれほど普及していなかった時代に、ECサイト運営の枠をはるかに飛び越えて、その先にインターネットの主要インフラ提供まで見据えていたベゾス氏はシンプルに凄い。
※参考情報・・・2022年8月5日、お掃除ロボット「ルンバ」で知られるiRobotを買収する旨を発表した。
2002年、Amazon Web Service(通称”AWS”)
2000年代、EC 事業が赤字続きだったこともあり、新たなサービスを検討。同社がEC事業を拡大する上で、「クラウドコンピューティングのノウハウ」という副産物を得ていた。オンラインショップでは、閲覧履歴などの顧客情報を管理・分析し、最適な商品を勧めるリコメンデーション機能があり、「Web アプリケーションシステムの先駆け」となった。今日では、業界ナンバーワンのシェアを誇るクラウドコンピューティングサービスにまで成長し、Amazonの収益を支えるまでに成長した。
2003年、「Amazonマーケットプレイス」導入
2000年からITバブル崩壊のあおりを受けて、株価は大暴落していた。そこで、小売業者がAmazonで出店できる新システム「Amazonマーケットプレイス」を導入。これをきっかけに見事に返り咲き、同年には上場以来はじめて業績黒字化を果たした。
Amazon物流に関する記事は以下のURLから。
2005年、Amazon Primeを開始
配送料が高く、商品の購入を躊躇してしまうという消費者の悩みを解決すべく、送料無料かつ翌日配送のサブスクリプションサービス(月額制会員サービス)のAmazon Primeを開始。現在ではアメリカのPrime会員は1億人を超えており、Amazon利用者のうち、約70%のユーザーが有料会員に登録している。
3. Amazon経済圏確立=Amazon黄金期!?(2007年~)
2007年、電子書籍リーダーAmazon Kindleと電子書籍販売Kindleストアを発表
オンラインで本が読める「Kindle」デバイスが販売され、驚異的な人気で売り切れ続出。Kindle開発のきっかけは、なんとSONYの電子書籍リーダーLibrieを日本で目にしたことだったと言われている。E-ink(電子ペーパー)技術で紙のように読みやすい画面に本のページが表示された端末を手に取った時、「これはAmazonのビジネスを破壊するとんでもない機械」だと驚愕。すぐにAmazon独自の電子書籍端末開発に乗り出したようだ。このスピード感に脱帽であり、結果的に参考になったSONYの端末は市場からの撤退を余儀なくされた。
2012年、ロボットメーカーKiva Systemsを買収
物流センター向け運搬ロボットメーカーKiva Systemsを買収総額約7億7500万ドルで買収。同社のロボットは、カメラとリアルタイム画像処理システムを搭載し、物流センター内を自律移動して商品が入った棚をロボットが作業者の所まで搬送してくれる。これによって、従来作業者は広い倉庫内を1日10km以上も歩いていた重労働が無くなり、作業者は商品のピッキングのみを行い、圧倒的に出荷効率が改善した。
2015年、Prime Videoをローンチ
2015年に入ると、動画見放題サービス「Prime Video」、音楽配信サービス「Prime Music」、商品を1時間以内に配送する「Prime Now」等々、プライム会員向けサービスを拡充。
4. リアル店舗進出(2015年~)
近年のAmazonといえば、「リアル店舗の出店」を思い浮かべる人も少なくない。その一つの理由は、Amazonが特定の分野におけるEC事業の限界を認めているからだと考えられる。例えば、どれだけ食品EC事業を充実させたとしても、そもそも食料品をオンラインで購入しようと考えない大多数の層を取り込むことは不可能だ。それだったら、みんなが気軽に立ち寄れる実店舗(例:Amazonフレッシュ)をつくってしまおうという具合だ。
最後に、リアル店舗展開に向けたAmazonの本気度が伝わる事例を見ていきたい。
2015年、Amaozn Booksを開店
2015年11月に同社初の実店舗として本社のあるシアトルにAmazon Booksをオープンした。しかしながら、Amazonは2022年3月に米国と英国にあるAmazon Booksを含む、計68の小売店を閉鎖することを発表した。スーパーやコンビニ、アパレルに経営資源を集中させる見込みと説明している。
2017年、Whole FoodsMarket買収
EC市場での消費者の囲い込みに成功したAmazonは、ECとリアル店舗のハイブリッドに舵を切った。最大規模にして市場に大きなインパクトをもたらしたのが、高級スーパーWhole Foods Marketを137億ドルで買収したことだろう。Whole Foodsの数十店舗でオンライン注文を受け付け、60以上の都市で2時間以内に届けるPrime Nowを可能にしただけでなく、オンラインの注文品を受け取るためのアマゾンロッカーの設置場所を確保できた。
2018年、Amazon go 出店
レジなし精算のコンビニエンスストアとしてAmazon goを出店。Whole Foods買収意図が既存店舗を使った潜在顧客の取り込みにあったとすると、Amazon Goは「都市型コンビニという新業態への進出」だと言える。米国でもコンビニエンスストアの業態は存在するが、日本のように弁当や総菜を大量販売するような仕組みにはなっていない。Amazonはここに目をつけて、レジなしという回転率の高さを武器に、これまで米国で存在しなかったコンビニ業態に新しい風を起こそうとしている。機械学習と膨大なセンサーを使ったAIによる全自動処理を駆使し、徹底的に効率化を図っている。
Amazon Goに関しての記事は以下のURLから。
リアル店舗に舵を切るもうひとつの理由は・・・
実は、リアル店舗への投資にこだわるのには、もう一つ明確な理由がある。それは、実店舗を出した方が安いからだ。デジタルエージェンシーHugeのコマース責任者であるホールデン・ベイル氏は、ここ数年「デジタル顧客獲得コストが店舗の賃料より高くなってきている。Facebookに多額の広告費用を払うより、実店舗を次々と開店したほうがトータルで安くなってきた」と話している。(インプレッションン単価は上昇を続ける一方で、アメリカ都市部の賃料はコロナ前と比べると下がったまま)
ともすれば、Amazonのリアル店舗進出が今後さらに加速するのは明らかであり、2-3年後にはあなたの会社のライバル企業を聞かれた時に『Amazon』と答えざるを得ない未来が迫っているのかもしれない。