コンビニエンスストア

コンビニ業界に未来はあるのか。セブン-イレブン、ネットコンビニ始動


 2021年8月24日にセブン-イレブン・ジャパンが打ち出したのが、宅配事業への殴り込みである。元々、全国に2万店超の店舗を構えるセブン-イレブンにとって、もしかしたら最大の強みは、すでに確立されたバリューチェーンと、その包囲網にあるのかもしれない。今回は、全国にその物流網を構築したセブン-イレブンが新たな取り組みとして打ち出した「ネットコンビニ」サービスについて見ていきたい。

目次

  1. ラストワンマイル
  2. ネットコンビニの収益はプラス?マイナス?

ラストワンマイル

 コンビニエンスストア事業を担う各社は「ラストワンマイル」という言葉をよく使用する。「ラストワンマイル」とは、物流における最終拠点(=最寄りの配送センターや倉庫)からエンドユーザー(消費者)への物流サービスを指す。

 昨今は、EC市場が爆発的に拡大し、消費者はスマホ一つで商品を購入する事が出来る様になった。Amazonや楽天市場においても、消費者は送料を無料で受け取ることが可能であったり、注文した商品を当日中に受け取ることも出来るような時代になってきている。

 そんな中、セブン&アイグループにおいても、成長戦略の柱として「ラストワンマイル」への対応を進めており、IRレポートにおいても明確に記載されている。コンビニ業界においても、オンラインを活用した販売網の構築が企図されている。
 例えば、ネットスーパーを利用する人にとっては馴染みのある「イトーヨーカドーネットスーパー」などが、その取り組みの最たる例の一つと言えるだろう。

 先日、セブン-イレブン・ジャパンが宅配サービスを行う出前館と提携し、セブン-イレブンの商品を近くの店舗から自宅や職場へ届ける「セブン-イレブンネットコンビニ」の試験運用を、一部のエリアを対象として2021年8月31日から開始する事を公表した。昨今のコロナウイルス感染拡大を背景に、不要不急の外出自粛やテレワークの推進により、コンビニへの客足が遠のく中、より利便性を向上する為の一手をうったといえるだろう。

 このビジネスモデルがどれくらいの効果を発揮する事が出来るか、考えてみたい。

ネットコンビニの収益はプラス?マイナス?

 まずは、どれくらいの売上が見込めるかについて検討してみたい。現在、コンビニ店舗での顧客一人あたりの購買単価は約550円程度と言われている。従来のネットスーパーなどの場合には、宅配手数料が発生し、消費者負担である場合が多く、ネットコンビニにおいても、1回の配送につき300円程度手数料が発生すると仮定する。
 しかしながら、昨今の送料無料化も考慮し、1回あたり3,000円以上の注文であれば、手数料はゼロ円となる様に設定したとする。消費者行動を考えた際、手数料をどこまで許容できるかがキーとなるが、今回の検証においては、無料になるまで商品を購入すると想定し、結果的に1名あたりの購買単価を3,000円と設定してみたい。

 次に、単位時間当たりの販売数量を計算したい。実際に商品を梱包し、発送準備を行うのがセブン-イレブン店舗のスタッフである。通常の勤務に加えて、ネットコンビニ利用者向けに商品梱包を行うために要する時間を1名あたり5分程度と考慮し、1時間あたり最大5便手配出来ると仮定する。1度の注文での売り上げは前述のとおり、3,000円となるため、1時間あたりの売上は15,000円となり、配達スタッフが稼働している時間を日中10時間とすると、1日の最大売上は15万円程度発生する事となる。


 実際には、セブン-イレブンのスタッフが配送するのではなく、委託先である出前館が配送を代行する。そのため、セブン-イレブンは出前館に対して配送代行手数料を支払う必要がある。代行して貰う際の手数料は売上高の20%が徴収されると仮定したい。
 また、ネットコンビニの発注や決済のシステム自体の利用料として売上高の10%が更に加算される。セブン-イレブンが独自のシステムを構築する事でこの費用は削減する事が出来るが、システム開発コストを算定する代わりに、利用料を徴収されるものとして計算したい。

 経費については、前述の通り、売上の10%分がシステム自体の使用料として徴収されるため、15,000円差し引かれる。更に、配送代行手数料が20%であり、30,000円が差し引かれる。また、これまで来店していた消費者の一部がネットコンビニを利用する事になる為、その売上高も落ち込む事となる。約8割の人が来店からネットコンビニに切り替えると仮定すると、1日の増加売上15万円の内、120,000円は販売の仕方が変更されただけであり、売上増加には貢献しない。但し、従来500円程度の単価だった人が、3,000円分の商品を購入する事による売上増加に伴い、その増分2,500円程度は増加したものと見なせるのでは無いかと考え、客単価の上昇影響を控除すると、結果的に2万円のみが切り替わったモノとみなす。

 上記の結果、ネットコンビニによる売上高の増加は以下の通りとなった。
売上高150,000円
システム利用料15,000円
配送代行手数料30,000円
既存顧客の売上20,000円
ネットで85,000円の売上高増加である。

 約9万円程度の売上高増加が見込める算段となり、全国2万店舗で考えた場合、1日あたり18億円の売上高増加に貢献する見込みである。年間で見れば、6,000億円超の売上増加に貢献する。

 そもそもネットコンビニを利用するユーザーにはどのような人がいるのかを考えてみると、従来まで他のコンビニを利用していた人が切り替える場合。又、上述の通り、セブン-イレブンを利用していたお客がネットコンビニに切り替え、客単価の増加に貢献する場合。これまで別の宅配サービスを利用していた人たちが切り替える場合が検討できるが、中々その規模や割合を算定するのは難しい。

そこで今回の検証では、上記の最大売上高に対して『稼働率』を設定して、どれくらいの規模の影響があるかを検証してみたい。以下に平均稼働率を25%、50%、75%の場合を想定して作成した表を掲載する。

 全店舗での売上高増加を考慮すれば、稼働率が25%(1時間あたり1-2便)であっても、1日あたり4億円の売上高向上が見込める取り組みであり、年間で見れば、1,551億円の売上が増加する試算である。フランチャイズ加盟店の売上高増加により見込める粗利が3-4割程度とすると、ロイヤリティとして本部に貢献する利益について、さらにその約4割がコンビニの利益となる。結果、年間で200億円程度の利益貢献が見込めるものとなる。

 上記の仮定がどこまで正しいかわからないが、ネットコンビニの成功によって一定の売上、利益増加を見込めることができれば、セブン-イレブンの業績拡大・維持に貢献することが想定できる。今後、セブン-イレブンのネットコンビニの取り組みがどのように進められていくのかは、ぜひ見ていきたい。

 

コンビニ業界に未来はあるのか。セブン-イレブン、ネットコンビニ始動」への1件のフィードバック

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です