コンビニエンスストア食品ロス問題について
食品ロスに関する前回の記事はこちらから。
目次
- 社会的対策
- 各社の取り組み
- おまけ
1. 社会的対策
農林水産省は2001年に「食品リサイクル法」を設けて、フードロスの発生抑制と再利用に向けて取り組むように食品関連事業者に義務付けた。しかし、この調査では、日本のフードロスの内、約50%は家庭から発生しているというデータであり、事業者のみが取り組むべきものではなく、消費者の意識改革も強く求められている。
しかしコンビニでは、通称『コンビニ会計』と呼ばれる独自の算定方式が足枷となって、粗利率を下げるような値引き販売が普及してこなかった。『コンビニ会計』とは、売れ残った商品=廃棄商品を売上の原価には含めず、粗利率の計算から除外する方式を言う。
例えば、日商30万円のコンビニ店舗の粗利率が3割と仮定してみると、売上30万円×(1-粗利率0.3)=21万円が売上原価に該当する。一方で、『コンビニ会計』上は原価に含まれない廃棄商品の仕入金額が3万円だったとすると、これを原価に含めた場合には、粗利率(=粗利益(9-3万円)÷売上30万円)は2割に下落する。
要するにコンビニ会計では、この廃棄商品を原価に入れないことで、粗利を大きくし、FC本部が得られるロイヤリティを高める仕組みとなっているのである。
そんな中、セブン-イレブン・ジャパンは「エシカルキャンペーン*」と称して100円あたり5円引きに相当する、nanacoポイントを自社(ナナコ)カード保持者に付与するキャンペーンを開始した。これ自体は食品ロス削減に貢献するかもしれないが、そもそも100円のおにぎりを5円引きという割引率はスーパーと比べて圧倒的に低い。(しかも、ナナコカードを持っている顧客は、セブンの全顧客の20%程度だと関係者は語っている。)
さらに、昨今セブンイレブンアプリはPaypayと提携し、様々なキャッシュバックキャンペーンを開催し、nanacoとの競合が発生している。コンビニ来店者が公平にメリットを享受するためには、カード保持者のみにポイントをつけるのではなく、店頭価格自体を値下げした方が利用者に喜ばれるだろう。
*エシカルキャンペーンで1店舗あたり2割のロス削減が繋がった。しかし、そもそも年間約468万円分/店舗(公正取引委員会発表)の食品廃棄が発生しているとのデータもあり、サラリーマンの平均年収411万円(平成30年、国税庁)を上回るほどの膨大な食品ロスが今この瞬間も発生し続けていることは看過できない。
2. 各社の取り組み
- 絶対的王者『セブン-イレブン』
売れ残ったまま消費期限を迎える商品については、特に値下げ等による見切り販売は行わず、原則として全て廃棄対象とすることが多い。これは本部と店舗とのFC契約において通常「見切り販売はFC契約解除、もしくは次回契約更新時の契約拒否事由に当たる」との条項が含まれていることが理由である。
しかし消費者サイドからは「まだ食べられる食品を捨ててしまうのはもったいない」、「店舗側による自由な販売を本部側が制限するのは、独占禁止法で禁止された『優越的地位の濫用』に当たる」との意見が以前から寄せられており、2009年2月には公正取引委員会がセブン-イレブンに対して独占禁止法違反の疑いで立ち入り検査が実施され、同年6月には同社に対し排除措置命令を出すに至った。
これを受けてコンビニ店舗の中に一部見切り販売を始める動きも出てきた。昨今では、世界的にSDGsに関する取り組み推進が各社に求められており、廃棄削減についても待ったなしの上京で蟻、上述の通り、全店舗でエシカルキャンペーンの推進が行われている。
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- ローソン
同社社長は、「捨てるよりは売り切った方が絶対にいい」と考えており、廃棄分を原価から除くことで廃棄した方が本部の取り分が増える「コンビニ会計」の継続を否定した。同社では2030年までに18年度比50%の食品ロス削減を目指す。
<食品ロス削減のための主な取り組み>
- 店舗:セミオート発注(半自動発注)システムによる余剰食品の発生の抑制
- 店舗:商品の値引き販売による売り切りの推進
- 店舗:恵方巻などの催事商品の予約販売の促進
- 店舗:売れ残り食品の飼料化・肥料化(家畜のエサや野菜の肥料に加工)
- 商品:容器の工夫などによる賞味期限の延長
- 商品:惣菜などの原材料に規格外野菜を活用
- 米飯類の工場:製造工程における余剰食品の発生を抑制
- 配送センター:適切な商品管理により余剰食品の発生を抑制、店舗への納品期限の切れた商品のNPO団体等への寄贈
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- ファミリーマート
季節商品を予約制にしたところ、食品廃棄物は大幅に減少し、加盟店には利益7割増という恩恵をもたらしたという。当然のことながら、ファミマ全体の販売量は減少して、対前年比で2割減となったというが、今までが加盟店に負担を強いる水ぶくれの状態だったということだ。各チェーン本部のロイヤリティは軒並み減少すること間違いなしだが、廃棄費用が大幅に削減される加盟店の収支は好転して、人手不足によって高騰している人件費の負担能力も向上する。
食品廃棄物の飼料・肥料へのリサイクルや廃食用油のリサイクル、食品ロス削減のために、冷凍食品の取り扱いを増やすなどの取り組みも推進しており、昨今では、「エコ割」の導入も行われている。
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<おまけ①> 過剰仕入 v.s. 機会損失
2020年9月2日、公正取引委員会が、CVS本部と加盟店との取引等に関する実態調査報告書を公表した。
報告書によれば、加盟店の意に反して本部から仕入れを強要されたり、ほとんど休みがとれない等の劣悪な労働環境にさらされていることが明らかにされた。公正取引委員会は、独占禁止法が禁じる「優越的地位の濫用」であるとし、その後大手CVSチェーン8社に対し、改善の要請を提出した。
本来、CVS本部は加盟店が値引き販売することを禁じてはいけないが、CVS会計があるがために、本部の採算だけを考えれば店頭での値引き販売は喜ばしくはないため、本部からの圧力もあり(?)加盟店は値引き販売への積極的な取り組みに腰が引けている。
<おまけ②> 食品ロスの負担は加盟店オーナー?本部?
廃棄費用のほとんどが加盟店の負担で、積極的な仕入れを奨励した本部のフトコロは痛まないところに、本部と加盟店の思惑のすれ違いが生じる。ざっくり言えば、仕入れした商品の約1割は廃棄ロスとなり、ドブに捨てていることになる。
「販売機会を逃さないように」、「品揃えの悪い店だと思われると、客足が遠のく」などと、本部はもっともらしい理屈を並べてより多くの仕入れを迫る。果ては、オーナーの不在を幸いに加盟店のパソコンから無断で発注する本部社員が出現するのも、加盟店の仕入れが増えるほど本部のロイヤリティが膨らむ、この利益相反関係が不調和を生み出す原因であることに疑いはない。
<おまけ③>廃棄商品の二次利用による収益化
2019年、ローソンは店舗から回収した廃棄食品をローソン店舗への商品納品後のトラックの戻り便を活用して千葉県市川市にある三菱食品の物流センターに集約し、別の収集運搬会社がリサイクル工場に廃棄食品を配送し、工場で飼料に加工した後、日本農産工業を通じて畜産農家に提供する実証実験を行った。
これまで、ローソンでは、廃棄食品の収集運搬会社が店舗ごとの廃棄食品を直接回収し、リサイクル工場に配送していたが、収集運搬会社を通さず、既存の店舗物流網を活用するため新たな人員の手配の不要となり、収集運搬会社が店舗に行く必要がないため、食品リサイクルの向上だけではなく、ドライバー不足の解消や、走行するトラック台数の削減によるCO2の削減に繋がる。
これらの取り組みを通じて、コストの全体最適化を推進することで、単なる売上高の向上に留まらないKPIの改善を図る取り組みが日々進められている。